2015/10/27

どくどくしょ

残像に口紅を (中公文庫)
残像に口紅を (中公文庫)
posted with amazlet at 15.10.27
筒井 康隆
中央公論社
売り上げランキング: 22,936
世界から一文字ずつ消えていったらどうなるのか…?を最後の文字が残るまでやり尽くして見せた実験小説。筒井康隆のベッドシーンなんてはじめて読んだわ…と思ったらやっぱり珍しかったみたいです。筒井作品ぜんぜんよんでないんだけど。

主人公の小説家・佐治と評論家であり友人の津田が「時間がたつにつれて使える文字が減っていく虚構」のルール作りをして、その虚構を本人たちが生きてみるという形で物語がはじまります。
消えた文字を含む単語なり名称なりがきえてゆくということは、人間も同じということで、最初は消えた文字・言葉よりも消えていく人を失ったあとのむなしさが強い。タイトルは家族で一番最初に消えた娘の存在をぼんやりと思い浮かべたときのせりふから。にくい…このタイトルうますぎる…!

文字が残っているうちは失ったものへの悲しみだとかそういう情緒を語ることができるんだけど、どんどん表現が制限されていくとただひたすらしていることや目にうつるものの描写、擬音が続いていく。特にどんどん言葉を削っていくラストスパートの第三章はとりあえず言葉を連ねるみたいなかんじで、つながりがなかったり機械的すぎたりして読むのがしんどいのだけど、それはつまり言葉がなくなりすぎると、なくなったものたちのことを思ってあげるだけの表現が残ってなくて、すなわちそういう感情もでてこないという。
終盤のほうで「津田」に含まれる字がきえて、もちろん津田はそれ以降完全に姿を消すんだけども、「え、重要人物なのにあいつ消えたなーとかないのか…」と思ってしまった(笑) 消えた片方を思い出してあげるために使わなければいけない言葉も一緒に消えてしまうと、感覚として「なんかもやもやする」みたいなのがかすかにあったとしても、小説に出すことはできないんだなあと。

今ふつうに考えたり悩んだり思ったりしているのって、言葉がまずあるからなのかなあと思いました。しかしどんどん文字は消えていくのにスラスラと変わらず書き続けられる力量すごかった…終盤でいきなり主人公の自伝をはじめてしまうのも。余談だけど主人公の自伝かわいそうだった…何をしても親に「はん」と鼻であしらわれて終わりの少年時代……人のやる気をくじく態度をとるのは本当に簡単だから注意してしないように努力しようと思いました!

あと津田、人のセックスを笑うな!(笑)

花のベッドでひるねして
花のベッドでひるねして
posted with amazlet at 15.10.27
よしもと ばなな
毎日新聞社
売り上げランキング: 58,853
よしもとばななさんが一番好きとおっしゃる小説。海辺に捨てられていたところを拾われた過去をもちながらも、あったかい家族に囲まれてまっすぐすぎるほど育つ主人公。始終「ああ…私しあわせ…」と言ってばかりで、事件らしい事件もとくに刺激的というわけじゃなくて、ほのぼのしたまま終わる。
さっと読めばそういうものなんだけど、おじいちゃんが「引き寄せの法則」のような力を持っていて、おうちがスピリチュアル名所のイギリス・グラストンベリーのB&B(宿泊施設)と提携をしていることなど、舞台の小さな村では「異様な家」として浮いていて。幸せな主人公は、別の視点でみると「変な子」「捨て子」のようなマイナスな印象を持たれていることがぼかされて書かれています。

とてもよい家庭にもらわれたとはいえ、捨て子という時点ですでに卑屈になる理由はそろっているし、その良い家族だって内輪でよくとも、外から見られると「おかしい」わけです。でもそういうところに目を向けず、与えられたものにありがたみをかんじていること。
おじいちゃんが「いつもちがうことをしないようにしておくことが大事」といっていたけど、その「ちがわないこと」がそうなのかなあーと。

おじいちゃんのせりふはスピリチュアル満載でも、とてもよかったです。


0 件のコメント:

コメントを投稿