2014/03/22

映画「あなたを抱きしめる日まで」感想

おじいちゃんおばあちゃんをかわいく撮らせたら英国に敵う国はありますまい。
あーかわいかった。主人公のおばあちゃん役のジュディ・デンチ!

今沖縄では沖縄国際映画祭をやっていて、そのイベントのひとつに桜坂映画大学っていうのがありまして。でゲストに町山智浩さんがくるっていうのを知って、普段映画が見られない体質の私もこれはいかねばと思っていってきました。

イベント内容は映画を上映しながら町山さんとその他芸人たち(雑)がちょこちょこコメントしていくというものでした。それって気が散るだけじゃないかなと思ったのですが町山さんのコメントはどれも映画で伝わりにくい背景をうまく補足してくれるものばかりで、映画の理解度が深まってめちゃくちゃ面白かったのですよ。

というわけでちょうネタバレいきます!

あらすじ:婚前性交を禁じるカトリックを信仰するアイルランドでは、妊娠してしまった未婚の女性を修道院に強制収容し奴隷同然の労働をさせ、子供を金持ちに売るという行為が1995年まで当たり前のように行われていた。主人公のフィロミーナも14歳で出産した息子アンソニーを連れ去られてしまう。50年経ちようやくその事実を娘に伝え、ジャーナリストのマーティン・シクスミスを頼って生き別れた息子を探しにアメリカへ渡る。マイケル・ヘスへと名前がかわっていた息子は既に亡くなっていたのだが、生前の情報を得ようと彼の元恋人を尋ねると、息子もフィロミーナを探すために修道院を訪れていたことが分かり……。


宗教の問題、アイルランドの問題、アメリカの問題、様々な問題が複雑に絡み合って、とても重たい内容の映画。マーティン・シクスミス役のコメディアンさんが脚本もてがけていることもあって、暗い話をコメディをまじえながらつくってあるのがほんとうに効果的でした。フィロミーナは処女を象徴する名前だそうですが、その名前にあうような、神を信じるピュアで無邪気なおばあちゃん、というキャラがとてもとてもかわいいと同時に切なくて、でも強くて、魅力的でした。息子がホワイトハウスで働くエリートだと知った時の「私と一緒にいたらこうなるのは無理ね」みたいな内容のセリフが特に印象的で。そこに連れ去られたことへの恨みとかまったくなくて、お金持ちに育ててもらってここまで頑張ったんだねーみたいな。ほんと無邪気!
あとアイルランド人だからかな、ちょくちょく酒のみっぽい描写があるのもよかったです(笑)

フィロミーナも息子のマイケルもカトリックという宗教にさいごまで翻弄されているのがなんとも苦しい。弁護士としてホワイトハウスでマイケルが働いていたころはレーガン政権だそうで、彼の支持層はカトリック教徒だったため、ゲイを厳しく差別しエイズの薬を認可しなかったそうです。マイケルはカミングアウトをしませんでしたが実はゲイで、死因もエイズ。親の意向で共和党に入ったらしいんですけど、さぞかし辛かったろうなぁ……と涙ぐんでいたら町山さんがこの人についてさらに解説してくれて

ゲイ仲間からは「大統領の近くにいるお前が働きかければエイズの薬が認可されるかもしれないのに、なぜ何もしないのか」と非難され、共和党とゲイの人々との間で板挟みにあって精神的におかしくなっていたそうで、自己嫌悪からハードな性交で血まみれになるほど自分を攻め込んでいたそうです。

ってフィロミーナより壮絶なのでは……。むしろこっちの一生のほうが気になるんだけど……

ふたりとも宗教というよりお金のために、票のために宗教を利用した権力者に振り回されてるだけなのが切ないですよね。今もあまりかわらないのかもしれないけど。

子供を売っていたことが知られるのが怖いのか、修道院もふたりがずっとお互いを探しているのに情報提供を拒んでいたせいで、とうとう会うことが敵わなかった。そのことがマイケルの元恋人のおかげで発覚してシスターたちにゴルァと乗り込むクライマックスも見応えありました。

私は一度も罪を犯していない。犯した者は一生苦しむべき、と過去のことから情報提供しなかったことまでをも宗教をつかって正当化するラスボスシスター(女優さんがサー・アレックス・ファーガソン似)。
そんなシスターに怒り狂う無神論者マーティン。
そこまでされても憎しみを持ちたくないが故に、シスターのすべてをあっさりと赦してしまうフィロミーナ。
いちばん最初に教えに背いた彼女が、いちばん教えに忠実だったということがわかるシーンです。
教えを守り通してきたと自負するシスターに完全勝利の瞬間です。結局、かわいいおばあちゃんが最強なんだよ!ということです。
「俺は怒っているんだ」というマーティンに"must be exhausting"(さぞかし疲れるでしょうね)と言い放つフィロミーナかっこいいです!

それにしても本当にステキなフィロミーナ。息子を奪われ、背負う必要のない罪を背負い続け、自分を責め続け、挙げ句の果てに息子にもう会えないとわかっても、それでも赦しますと口にできる強さ。

息子がゲイっていうのもカトリック的に罪のはずなんですけど「そうだと思ってたわ」ってあっさり受け入れるのもいいですよね。今までは想像するだけだったので、息子に関する情報を得られるだけで嬉しかったからかもしれませんが。会えないとわかっても息子のことが少しでも知りたい、と些細な情報でもかき集めようとするフィロミーナにとって、息子がアイルランドを自分の故郷だと考えていて、自分のことを探してくれていた、さらには自分に見つけてもらうために、息子が修道院に埋葬してもらうよう希望したという事実は、何よりも嬉しいことだったんだろうなと思います。

さすが実話に基づいただけあって、マーティン・シクスミスさんがかいた記事がありました。
Stolen from his mother - and sold to the highest bidder
http://www.dailymail.co.uk/femail/article-1216191/Stolen-mother-sold-highest-bidder.html

映画の内容ぜんぶはいってるじゃないですか……。
しかも修道院はマイケルの墓をつくるときに寄付金要求してたらしいじゃないですか……。
コメントで「カトリックの修道院について良い噂をきいたことないわー」ていうのがあってとてもうなずけます。

そしてマイケルの墓をたずねるフィロミーナの本音がとても苦しいです。
「ようやく戻ってこられたけど、誰も私があなたを探してたこと、あなたを愛してたことを伝えてあげられなかったのね。(私がはやくこのことを打ち明けていたら)もっと違ったことになってたはずだったのに」



レーガン政権のくだりとか、町山さんの解説がないとわからないことばかりだったので
今回ほんとうに面白かったです。すごい良い体験だったなー。

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