2013/01/27

なくしつくす

『タイタンの妖女』カート・ヴォネガット・ジュニア/朝倉久志・訳

読書という行為はいまでも私にとって楽しみとか喜びというよりも、がっつり頭を使うものでなければならないというなぞの強迫観念があります。読書は大事!!!!!と昔から親にいいきかせられてきたからか。楽しむものじゃなくて「心を豊かにする」ものじゃなければ読書ではない。なんて、誰が決めたわけでもないのに、ほんとに私の中では、今の今までそういう「ちょっとめんどうなもの(はまれば面白いけど)」という位置づけなのです。

ほんとうに読みたいから読んでるのか「これ読んだら体力つきそう」と思ってるから読んでるのか。
といわれるとたぶん後者でしょう。なので選ぶ本はいつだって「読んでみたいけどとっつきにくそうなもの」です。だから途中で挫折することもしょっちゅうです。

そんな苦行のようなのにたまにやってみたくなる読書体験、今回は挫折せず最後まで読み終えました。カートヴォネガットはかねてからずっと読まねば、読まねばと思っていたので嬉しいです。
なぜ読まねばいけないかというと、大学で文学専攻してたのに読んでなかったし
あと彼が亡くなるちょっと前にでた「国のない男」というエッセイをなぜか買っていて、小説家なのに小説よまずにエッセイから入るのもなんだかなーと思っていたのも理由のひとつです。


SF作品には興味があんまりないんですけど、面白かったです。
小説を読んでて気になる部分ってのはどうしても今自分が気にかけていることと関係するもので、今回はラムファードに翻弄されるマラカイ・コンスタントとビアトリス・ラムファードの言動がちょくちょく印象に残りました。
自分で人生をコントロールできていた最初とはうってかわって、ラムファードによって人生をかきまわされながらもしぶとく生きていくんですが、持っていた富や名声、希望なにもかも失っても、残ったものだけでまた新しくはじめる姿が、すごくいいなあと思いました。こんな風に生きたかったわけではぜんぜんないし、環境にすぐ適応できるほど楽観的だったり器用だったりする人間ではないのに、嫌々ながらもまた生き始める、このかんじ。
かきまわされた結果、これまで執着していたものから解き放たれるということ。
不可抗力って実際おこると最悪だけど、それがもたらすものって必ずしも悪いことだけではないんだよなあと思います。

コミカルでユニークで、どのエピソードもとても素敵なお話だけれど、幾度となく「大事な物」をなくしてまた生き始める、というのはほんのり悲しいですね。軽いタッチでかかれているのに読んでてずっとしんみりしてました。アンク(マラカイ・コンスタント)が火星で必死に記憶を消されないようもがくところなんかもう切なさ過ぎてだいすきです。

しかしウィンストン・ラムファードが冒頭で妻のビアトリスに
「はじめて真実の愛を知るときを、たのしみに待ちたまえ、ビー。貴族性の外面的な証拠をなにひとつ持たずに、貴族らしく振舞うときをたのしみに待ちたまえ。きみが神から授かった威厳と知性とやさしさ以外になにも持たなくなるときを、たのしみに待ちたまえ――それらの材料だけで、ほかのいっさいを使わずに、すばらしく美しいなにかを作りあげるときを、たのしみに待ちたまえ 」(91)
ていった場面、いい言葉だなあホロリって思ってページを折って記憶しておいたんですが、その実現が遅い、遅いよヴォネガット!(笑)頑固だったビアトリスが今あるものだけを受け入れていく過程も、マラカイ・コンスタントのそれと同じように丁寧に描いてもらえたらもっと最後のシーンが素敵だったのかなーと思いますが、それでもやっぱり最後、タイタンでくらすふたりの言葉はぐっときます。

「だれにとってもいちばん不幸なことがあるとしたら」と彼女はいった。「それはだれにもなにごとにも利用されないことである」
 この考えが彼女の緊張をほぐした。彼女はラムファードの古ぼけた曲面椅子に横たわり、背すじの寒くなるほど美しい土星の環――ラムファードの虹――を見あげた。
「わたしを利用してくれてありがとう」と彼女はコンスタントにいった。「たとえ、わたしが利用されたがらなかったにしても」(441)

コンスタントは両手を揉み合わせた。彼がタイタンで失ったただひとりの伴侶は、彼の左手にとっての右手のような伴侶だったのだ。「淋しいよ」と彼はいった。
「きみたちはとうとう愛しあうことができたんだね」とサロ。
「たった一地球年前のことだった」とコンスタント。「おれたちはそれだけ長いあいだかかってやっと気づいたんだよ。人生の目的は、どこのだれがそれを操っているにしろ、手近にいて愛されるのを待っているだれかを愛することだ、と」(445)

長かったし、入り込むまで今回も時間かかったけど、読んでよかった!

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